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今は使われなくなった、プール脇の元水泳部の部室に、その男はふらりと入ってきた。 野暮ったい黒縁のメガネの上から、ボサボサの前髪がかかっていて、表情はよく見えない。 昨今の育ちすぎの高校生と比べたらチビだし、 「あぁ……、誰もいないと思った。失礼」 ボソボソと口の中にこもるような、聞き取りにくい声でしゃべる。 だから、 「あぁ? オッサン、何見てんだよ」 そのまま踵を返すのなら放置でよかった。 男はこの学校の先生ではないし、ましてや生徒でもない。 通りすがりの一般人なら、他人の子どもが集まって何をしていようとも、関心はもたないはずだ。 たとえ部屋が煙りで充満していようとも、 「あータバコだよ、タバコ。痛い目みたくなきゃ、これぐらい大目に見ろよオッサン」 自分で言ったセリフに、 「ギャハハハ……」 気が触れたような笑い声をたてるのは、煙りの元がタバコだけではなく、葉っぱ特有のちょっと甘い匂いが混ざっているせいだろう。
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