国立超心理学研究所

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「では、どうぞ」  江利香ちゃんには何のマークか分かっているはずだ。嘘が下手といっても、四角以外の形を答えれば良いだけだから、問題ないだろう。 「おっぱい」  江利香ちゃんの口から、意外な単語が飛び出した。 「ん? 丸ということかな」  大塚室長は、記録用紙に□ー◯と書き入れた。 「では、次」 「おっぱい」 「次」 「おっぱい」 「次だ」 「おっぱい」 「おい! ふざけてるのか?」 「だってあなた、おっぱいの事しか考えてないんだもの」 「なっ……」  へぇ、あの堅物の大塚室長が。じゃなくて、江利香ちゃんの嘘か。意外に大胆だな。 「よろしい。ならばシンプルにいこうじゃないか。今、私が何を考えているか、言ってみなさい」  室長は冷静を装っているが、こめかみに青筋が浮いている。 「……そんなこと私の口から言わせようとして。変態。ロリコン。セクハラよ。訴えてやる」 「何を言ってるんだ君は!」 「ほぅ、室長。良い趣味をお持ちですね」 「君は黙っていろ!」 「若ければ若いほど良い。君の様な年齢がどストライクなんだ、ですって。キモ」 「私はそんな事考えておらん!」  何かおかしいぞ。江利香ちゃんを見ると、その視線は阿久津課長の方を向いていた。  あ! 課長が自分の心を読ませてるんだ! 課長が考えた事をそのまま言う様に、打ち合わせたのか。  それにしたって、やり過ぎです! 課長の脇腹を肘でぐりぐりと小突いた。 「いいじゃねぇかいつもいばってるんだたまにはあかっぱじかけばいい」  江利香ちゃんが平坦な声で言う。課長! 思考が乱れてます! 「じゃなかった、このすけべめがね。ひわいなことしかーー」 「もういい!」  大塚室長はバンッ! と机を叩き、立ち上がった。 「阿久津君! これの何処がテレパスなんだ!」 「違いますかね?」 「話にならん!」 「そりゃ残念です。じゃあ、『超能力者の素養ナシ』にチェックしましてと。書類のここんとこにサインいただけます?」  大塚室長は怒りが収まらない様子で、ペンも折れよとばかりの筆圧でサインをした。ものすごい顔で課長を睨んでいる。課長は涼しい顔で、僕に悪戯っぽい視線を送ってきた。 「ちょろいもんだろ?」  江利香ちゃんが喋る。もういいっての! 慌てて2人を検査室から連れ出した。
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