国立超心理学研究所

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「君達が対象を連れて来ないと研究にならんのだよ!」  月曜日の朝から、研究部ESP研究室・大塚室長の怒声が営業課に響く。対象というのは、検査対象者の事だ。人に向かって「対象」だなどとは失礼な略し方だが、研究者というのはそんな所に気を使う人種ではない。  詰め寄る大塚室長に、のらりくらりと対応するのは、僕の上司にあたる阿久津課長だ。しわしわのシャツが、大塚室長の糊の効いた白衣と対照的だ。 「我々も八方手を尽くして探しているんですがね、なかなか有望な対象はみつからんですよ」  対象が見つからないのは事実だ。八方手を尽くしてはいないけど。課長に至っては手を出してすらいない。 「それをどうにかするのが君らの仕事だろう!!」  大塚室長の声がひときわ大きくなるのと同時に、電話が鳴った。二人の騒ぎ声から耳を逸らせたい僕は、これ幸いと受話器を取る。 「はい、国立超心理学研究所です」  超心理学とは、いわゆる超能力を研究する学問だ。研究対象である超能力者(所内用語で言うところの、対象)を探して来るのが、僕たち学術推進部営業課のミッション。しかし、その成果は芳しくない。  世の中には、自分を超能力者だと信じて疑わない、固い信念の持ち主が一定数いる。そんな方々の話を聞きに行き、精神科医を紹介するのが、事実上営業課の主な業務になっている。  まれに、これは、と思える人材に出会う事もある。するとそいつはアマチュア奇術師で、研究部がそいつのトリックを暴く、というのが研究所創立以来の流れだ。  本来の機能を果たしていないのに取り潰しにならないのは、お役人様に与えるポストの帳尻合わせだとか、いやいや、左遷させるのに丁度良いからだとか、色々な噂がある。僕らはそこに雇われている団体職員だから、上の事情など知る由もないが。
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