国立超心理学研究所

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☆★☆ 「人の心が読める、ですか」  電話をかけてきた鴫原啓子さんのお宅で、訴えを聞いていた。僕一人で。課長は新幹線に乗った途端にビールをあおり、新幹線から降りた途端「念動力者を探しに行く」と言ってパチンコ屋に入っていった。念動力が使える人間がいるならば、そいつは必ずパチンコ屋に行く、というのが課長の持論だ。   鴫原さんはまともに見えた。 普段僕らが相手にしている誇大妄想者、大ボラ吹きの類ではなさそうだ。8歳の娘さんがいるにしては若々しい。ただ、すこしやつれていた。それというのも、お嬢さんの江利香ちゃんの事で悩んでいたからだ。江利香ちゃんは、他人の考えを読むことができるのだという。 「いつも、私が思った事を先回りしてやってくれて……」 「どの程度わかるんですか?」 「そうですね……。例えば、先ほどご挨拶した後、江利香が1人で部屋に戻りましたけど、あれは私が心の中で『お客様とお話があるから、自分の部屋に戻ってて』と考えたからなんです」  本当だろうか? シャイな子がお客さんに人見知りしたようにしか見えなかったが。確かめるために、江利香ちゃんと直接話をさせてもらうことにした。  江利香ちゃんの子ども部屋で、2人きりにしてもらう。お母さんが何らかのサインを与える可能性もあるからだ。  ショートボブで、シックなワンピースを着ている江利香ちゃんは、大人しそうな印象だ。机で本を読んでいたが、くるりと椅子を回してこちらを向いてくれた。 「改めまして、こんにちは。僕は市谷健志といいます。えーと、僕がどこから来たか、わかるかな?」  質問に対し、ちらと僕と目を合わせると「東京」と正解を即答した。当てずっぽうの可能性もあるが。 「何しにきたか、わかる?」 「私を調べに来た」  うっ……。そう直裁に言われると、気が引けてしまう。本当に心を読んでいるのだろうか? ただ、これらの内容は事前にお母さんから聞いていたという事もあり得る。 「あー、暑いね。のど渇いちゃったな。僕が今、何を飲みたいかわかる?」  じっと目を見つめてくる。一瞬の沈黙のあと、表情を変えずに答えた。 「冷たいルイボスティー。あと、私がズルをしてるんじゃないかって疑ってる」
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