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ネムの言葉に兄は首を傾げ、床に転がった油の入っていた空き瓶を見つけ、誤解だよと諫めた。
「この方が助けてくれたんだよ。ネムが失礼してしまい申し訳ございません、お客様。私はこの家の執事、ウィズと申します。ほら、ネムも」
ウィズ、と名乗ったブリキの人形の兄は丁寧にペコリと頭を下げた。妹と大分違うな…。
ウィズに言われネムは渋々、かなり解せぬ、と言う表情で淡々と呟いた。
「同じくこの家を任されているネムです」
「ボクはアッシュ!こっちはドロシーで、この子はトトだよ!よろしくねー」
待って。何勝手に挨拶してるの、アッシュ。面倒なのにこれ以上付き合いたくないのに。そっと退散しようと思ってたのに。ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねるアッシュを見て、ウィズは物珍しそうに呟く。
「前にご主人様が畑をお作りになった時にカラス避けとしてカカシは製作しておりましたが…私、この様に会話が出来るカカシとは初めてお会いしました」
「きっと中に得体の知れないモノが詰まっているのでしょう。兄様、野獣や魔物の類かも知れません。お近付きになられてお怪我をされたらネムはシクシクです」
「心配には及ばないよ。僕達はアッシュが取った物を返しに来ただから。ほら、アッシュ」
はあい、と返事をしてアッシュは根こそぎ刈り取って来た物を兄妹の目の前にどさりと置いた。
大量に置かれた木苺やあけび等を見てウィズは首を傾げる。
「これは…?ネム、ご主人様の庭や畑には果物はなかったよね?」
「はい、兄様。恐らくこの付近に自生していた物かと。敷地内の物を勝手に取るとは太々しいにも程があります。恥を知りなさい、お客様」
お客様、って呼んでる割には盛大に毒を吐いて来るのは何なんだろう。
とりあえず、返す物は返したからもうここに用は無い。面倒事は避けるに限る。
「何だっていいけど。…返しに来ただけだから、もう行くよ。それじゃ」
「お待ち下さい。…あの、我がご主人様をお見掛けしませんでしたか?昼食を支度をしていた筈なのですが…どうしてこの様に埃だらけになっているのでしょう」
ウィズは不思議そうにキョロキョロと辺りを見渡している。妹のネムは察しているのか、決して口を開こうとはしない。
勿論、僕達はこの家の主人とやらを知らない。見かけてもいない。この様子だと、もう主が居なくなって何年も過ぎたんだろうな。
「知らないよ。君達以外、誰も見てないし」
「そうですか…。ご主人様が帰宅した時にこの様では執事失格ですね。先ずは掃除をしなければ。ネム、私は掃除をしてくるよ。料理は任せても大丈夫かい?」
「はい、兄様。滞りなく」
ウィズは大変だ、と呟きながら箒とハタキを持って部屋を後にした。
今度こそ去ろうとしたら、ネムに腕を掴まれた。
「待ちなさい。……此処だと兄様に聞かれるから外に。貴方達の罰はその後ネムが考える」
この様子だと、そう簡単には返して貰えなさそうだ。面倒なのを起こしてしまったと、心の中で溜息を吐いた。
強引にネムに荒れ果てた庭へと連れて来られた。状況がわかっていないアッシュは楽しそうに跳ねている。
「この様子を見て、何もわからない程ネムは馬鹿じゃないわ。ネムは賢いもの。兄様とネムはご主人様に捨てられた。でも、何も思わない。兄様が居れば大丈夫。けど、兄様はそうじゃない。お客様、この事は黙っておいて頂戴」
「大丈夫、君達と関わるつもりはないから。何も言うつもりはないよ」
「そう、ならいいの。じゃあお客様。壊れた扉を直してから庭木の手入れをして頂戴。それからネムの手伝い。そうしたら好きな所なり何なり行って無様に堕落を続けながら何処かに行くと良いと思うわ」
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