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「おはよう、立花君!」
「…おはよ」
毎朝こうやって僕に挨拶してくるのは、近所に住む同じクラスメイトの矢嶋佳奈さん。黒のボブカットで、クラスでは人気者の女子生徒だ。
愛想のない返事を返すのに、毎回彼女は僕に声をかけてくる。
「嘉音君、暗い!!折角綺麗な顔立ちしてるのに、仏頂面じゃ、勿体無いよ?はい、笑顔、笑顔!」
なんでこう朝から無駄に元気なんだろ。
朝は眠いし、肌寒いし、怠いし…て言うか僕は元から愛想良い方じゃないし。
「矢嶋さん。あのさ」
「えへへ、佳奈でいいよー」
「………矢嶋さん。お願いだから僕に構わないでくれる?煩い人、苦手なんだよね。じゃ」
矢嶋さんは、ポカンとした様子で立ち止まった。僕はそんなの御構い無しに学校へ向かう。…ふう、ようやく静かになった。
学校からチャイムが聞こえてくる。無駄に時間を割いたせいで遅刻しそうだ。…面倒くさいなぁ。
僕の通っている高校は、校則がやたら厳しい。チャイムが鳴り終わる頃には、門を閉めてしまう。しかも、今日の校門前には口煩い教頭が立っている。
「こら、立花!また遅刻か!」
僕は締まりかけていた校門を軽く飛び越えた。後ろから、教頭の小言が聞こえてくるが、無視に限る。
それに遅刻は僕だけじゃない。先程の矢嶋さん他、数名の生徒が教頭に捕まっている。
僕は靴を履き替えようと下駄箱入れを開ける。すると、大量の手紙が雪崩れてきた。…またか。僕の下駄箱入れはいつからポストになったのか。可愛らしい便箋が沢山ある。毎度、これを片付けるのはかなり苦労する。一度、皆が居る教室のゴミ箱に大量に突っ込んだ事がある。そうすれば傷付いて、止めるかなと思ったから。それでも、止む気配はなかった。なんなの、その無駄な熱意。良くわからないんだけども。
手紙を一つ一つ拾い上げる。同学年の女子から、2、3年の先輩方からまで。それはもう沢山の手紙があった。その中に、先程の彼女ーー矢嶋さんからの手紙も入っている。
本当、女子の行動は理解出来ない。
こんな愛想のない人間の何処が良いのか、僕にはわからない。手紙を適当に鞄に詰めて僕は教室へと向かった。あのまま放置してても良かったんだけど、一度放置しっぱなしにしたら下駄箱が開かなくなった例があるので、面倒でも多少整理はしなくてはいけないのだった。
「よ、嘉音。今日も堂々と遅刻かー?」
席に座るなり、後ろの席の久野圭吾ーー僕の唯一友達って呼べる人物に声をかけられた。
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