第二歩 ブリキの兄妹

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周りは皆木彫りの人形ばかりなのに、何故床に倒れるようにブリキの人形二体が倒れてるんだろうか。 埃は積もってるし、うっすら錆びてるし、放置されてから随分経つんだろうな。 でも、他の人形達とは明らかに違う。 髪もあるし、服だって着せられてる。……これ、普通に人入って来たら死体か、って思うんじゃないの。 「こっちの子、ドロシーに似てるね?」 …人型だったら取り敢えず何でも僕に見えるのかな、アッシュは。 人形は二体、アッシュが似てると言ったのは小さめのシルクハットにモノクロの執事服に金髪の男の子の人形の方。片方は女の子で、此方はメイド服に髪はプラチナブロンドの綺麗な色の人形だった。 何でこんな所に放置されてるんだろ。 トトが床倒れている人形二体の匂いを嗅いで、トコトコと戸棚の方へ歩いていく。そして、此処だと言わんばかりにワン、と鳴いた。 「其処に何かあるの?」 古びた薬品ばかり並ぶ戸棚…の中に二人の食事、と書かれた謎の瓶を発見した。二人の食事?え、この倒れてる二人? 一応ヤバイ薬だったら嫌なので掌で軽く仰いで匂いを確かめる。…普通の油のようだ。 「…燃料切れで倒れてるって事なのかな」 確かにブリキなら油を差せば動く…筈。ブリキの人形って言うのに産まれてから今まで遭遇した事ないから確証はないけども。それにしても…何処に差せばいいのか。 「ドロシー、どうしたの?」 アッシュが不思議そうにぴょんぴょん跳ねて近付いて来た。 「あ、いや…。ブリキだったらこの油…この人形達にとっては食事みたいな物ね。何処に差せばいいのかな、って。やった事ないからわかんないし」 「んー。食事って、ドロシーが朝と夜に何か食べてる事でしょ?食事だったら口から食べるんじゃないのー。ドロシーもトトもそうだよね」 まあ、そうだけど。油を口から流し込めってか…。 何やってんだか、僕。何時もなら面倒くさいし厄介事は嫌だからスルーなのに。トトやアッシュにどうも調子を狂わされてしまう。 取り敢えず、女の子の人形の方からそっと口に油を注いであげた。油が半分になった所で隣に倒れている男の子の人形にも油を注ぐ。 ギギ、と何かが動く音がして振り返る。 女の子の人形がパチパチと瞬きをして、ゆっくり立ち上がった。そして、僕をジッと見つめてくる。 「兄様から離れなさい、無礼者」 「わー!動いたー!喋ったー!!」 いや、無礼者も何も初対面でいきなり罵声を浴びせて来る君はなんなの。しかも一応助けた立場なんだけど。 横でアッシュが嬉しそうに跳ね回る。それを見た女の子は物凄く嫌そうな顔をした。 「何ですか、この煩いカカシは。ネムはとてもイライラです。不貞の輩多数の侵入を許し、剰えネムの兄様に…」 この子、ネムって言うのか。で、横になって倒れていたのは兄と。兄妹のブリキなら人形か。成る程。 最早人形が普通に喋っていても何も驚かないな。カカシが自由にはしゃぎ回って話しかけて来るし。 「ん…」 「兄様!」 ギギ、と鈍い音を立てて兄の方も目覚める。 慌ててネムが駆け寄った。 「ネム…。おはよう。あれ…此方の方々は?お客様かい?」 「違います、兄様。お休みになっている兄様に無礼を働いた不届き者です」 ええ…。何だか凄く面倒くさいの起こしちゃったな…。 これ以上話がややこしくなる前に退散した方が良さそうだ。
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