カゲロウと朝露

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気づけば君は再びコンクリートのベンチに座っていて、僕も君の隣に座っていた。辺りを見渡すと、草花の上の朝露はすっかり無くなっていた。 「もう行かなきゃ」 君は立ち上がり、あたたかい手のひらで僕の頭をグリグリと撫でた。 「あの不思議な店の話を聞いてくれて、ありがとう」 僕は君を見上げた。君も僕を見る。にこっと笑って君は駆け出した。手には白い小石を握りしめている。 「じゃあねっ!」 僕は願った。 君が、いつまでも想像する心を無くしませんように。小さな者に心を寄せていられますように。色んなことを楽しめますように。 けれど人間の世界は忙しすぎて、ゆっくり想像することも、自然を見つめることも、時には心から楽しむ事も出来なくなってしまうことを、僕は知っていた。 でも、どうか君は…… 虹色に輝く草花を、ココアの香りを、青空と入道雲で魚になれることを忘れないでいてほしい。 そんなことを祈りながら、僕は走り去る君の背中にひと言だけ返事をした。 『にゃーぁお!!』 END
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