カゲロウと朝露

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その虹の雫がゆらりと揺れた。僕は君の記憶を見た。 ーーーーーー 店のカウンターに座っている君の前に、黒い影がカップを差し出す。 「ありがとうございます」 君は小さく呟いて、そのカップに口をつけた。 黒い影は、大きいとも小さいとも言えなかった。形があるようで無くて、性別もわからない。確かにそこに存在しているのに、儚く消えてしまいそうにも見える。 君はカップの中身をコクンとひとくち飲み込むと、黒い影に向かって話し始めた。 「私、青い空に浮かぶ真っ白な入道雲を見ると、いつも想像するの」 ふわりと揺れた黒い影がうなずく。 「へぇ。何を?」 これは黒い影の声だろうか。店の空気に溶けて響く低い声。優しく、君に続きをうながす。 君は目を伏せた。 「私の上には青い空。ちょうど頭の上に縦に伸びる入道雲があるの。見上げると、入道雲はとても大きくて、少し怖くなる」 「どうして?」 「まるで自分が魚になったような気になるわ。私は深い海の底にいるの。近くに岩場や珊瑚があって、真っ青な海が広がってる。きっと、あの上に人がいるんだなって、そう思うの」
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