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「入道雲と青い空で、君は魚になるの?」
黒い影は興味深そうに尋ねた。
「そうよ……私、おかしいかしら」
「おかしくないよ。そんな風に空を見た事がないから、今すぐ空を見上げてみたいと思ったよ」
君は嬉しそうにカップに手を伸ばした。中身をコクン、コクンと勢いよく飲み干してカウンターに戻す。
「ふふっ」と笑った君が黒い影を見ようとすると、ふいに声がした。
「マスター!この羽はもうダメだよ。これ以上は飛べない。このお嬢ちゃんが最後のお客だよ」
「知ってるよ、船長」
船長は、甲高い声をあげて叫ぶと元の場所へ戻って行った。
耳をすますと、微かにブーンという音が聞こえる。これが羽の音だろうか。
君もキョロキョロと辺りを見回している。
マスターと呼ばれた黒い影が、君に微笑んだように感じた。
「君は、もうじき帰れるよ。素敵な話を聴かせてくれて、ありがとう」
そう言われて、君は目を白黒させた。
「わたしたちが誰かって、そう思っているんだろう?」
黒い影は君の返事を待たずに続けた。
「君が今朝早く、街灯の下から道路脇の葉っぱの上に移動させてくれた虫を覚えているかい?」
「カゲロウ……」
君は、そう言った。
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