1

3/5
前へ
/5ページ
次へ
肌寒い風が頬を掠めていく。 二月の風は容赦がない。 俺は制服のポケットに手を突っ込み、瞳を伏せた。 「──…寒い。」 鼻をすすり、いつもと同じように通学路を歩んでいく。 4月になれば、こんな制服を脱ぎ捨てて…。 また新しい制服を着なくちゃならない。 長いのか短いのかも覚えていない中学生活を終えて、高校生活がスタートする。 適当に勉強して、適当に受験して、当たり前のように、落ちた。 そこはセオリー通りにいかないもので、案の定と言うか予想通りだったが、滑り止めは空気を読まずに合格。 「──…ま、いっか。」 取り敢えず受かったのだから、文句はないだろ。 俺は白い吐息を煙草の煙に見立てて吐き出した。 「おーう、おっつかれー。黒(くろ)ちゃん。」 「ちゃん付けは止めろって言っただろう。樹(いつき)。」 後ろからの声に俺は溜め息混じりに言葉を返す。 樹は口角を上げ、両手の人差し指で俺を指差した。 「幼馴染みの特権じゃないっ!黒ちゃんったら酷い!」 「………。」 「ういうい。」 「…はぁ。」 これが女の幼馴染みならばラブコメとして、恥じらってみるかも知れないが、如何せん男の幼馴染み相手に恥じらう気にもなれなかった。 盛大な溜め息に樹は俺の肩をポンと叩くと、隣に立って歩き出した。 「拗ねるなって、黒。」 「拗ねる気すら失せる。」 「ま、こんなやりとりもさ。──…あと2ヶ月で終わりだぜ?」 「……。」 「こんな事すら懐かしく感じる日が来るのかねえ。同窓会とかでさ。」 「お前、同じ高校だろうが。」 「ふっ…、高校で会うのは新生した樹。新たな青柳(あおやぎ)樹だぜ。」 ……。 俺は言葉を返さないまま歩く。 樹は慣れたように気に止めず歩く。 これが俺の腐れ縁で面倒な幼馴染みだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加