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肌寒い風が頬を掠めていく。
二月の風は容赦がない。
俺は制服のポケットに手を突っ込み、瞳を伏せた。
「──…寒い。」
鼻をすすり、いつもと同じように通学路を歩んでいく。
4月になれば、こんな制服を脱ぎ捨てて…。
また新しい制服を着なくちゃならない。
長いのか短いのかも覚えていない中学生活を終えて、高校生活がスタートする。
適当に勉強して、適当に受験して、当たり前のように、落ちた。
そこはセオリー通りにいかないもので、案の定と言うか予想通りだったが、滑り止めは空気を読まずに合格。
「──…ま、いっか。」
取り敢えず受かったのだから、文句はないだろ。
俺は白い吐息を煙草の煙に見立てて吐き出した。
「おーう、おっつかれー。黒(くろ)ちゃん。」
「ちゃん付けは止めろって言っただろう。樹(いつき)。」
後ろからの声に俺は溜め息混じりに言葉を返す。
樹は口角を上げ、両手の人差し指で俺を指差した。
「幼馴染みの特権じゃないっ!黒ちゃんったら酷い!」
「………。」
「ういうい。」
「…はぁ。」
これが女の幼馴染みならばラブコメとして、恥じらってみるかも知れないが、如何せん男の幼馴染み相手に恥じらう気にもなれなかった。
盛大な溜め息に樹は俺の肩をポンと叩くと、隣に立って歩き出した。
「拗ねるなって、黒。」
「拗ねる気すら失せる。」
「ま、こんなやりとりもさ。──…あと2ヶ月で終わりだぜ?」
「……。」
「こんな事すら懐かしく感じる日が来るのかねえ。同窓会とかでさ。」
「お前、同じ高校だろうが。」
「ふっ…、高校で会うのは新生した樹。新たな青柳(あおやぎ)樹だぜ。」
……。
俺は言葉を返さないまま歩く。
樹は慣れたように気に止めず歩く。
これが俺の腐れ縁で面倒な幼馴染みだ。
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