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『女子トイレの怪』(冒頭1ページ弱・抜粋)
私がある女子大の生徒だった頃の話。
「何でこの学校には七不思議が無いんだろう」
カンナ君が神妙な声色で静かに呟いた。
(君付けしているがカンナ君も女の子だ。)
私はノートから目を離し彼女を見る。定期試験も近付いていて、勉強会として空き教室に集まった筈なのに、彼女はノートも教科書も出していない。暇そうに頬杖をつきながら、コーラの空きペットボトルをチェスの駒のように、置いてはつまみ上げ、少し移動させてまた置く、という動作を繰り返していた。
「何?」
私が訊ねてみると、彼女は「だから、」と手遊びをやめ、私に向き直って苛立ち混じりに再び繰り返した。
「何でこの学校には七不思議が無いんだろう、って。八十年もあるんだから、五不思議くらいはあってもいいだろ?」
五不思議って何だ。そんな感想を心の中に押し込めて、私は他のメンバーを見た。この教室には私とカンナ君、そしてふっかとしい、わたりとゆるるの総勢六人が揃っている。そしてほぼ全員がカンナ君の突然の文句に絶句していた。
「とりあえず、ノートと教科書を出しなさい。明日だよ? テスト」
自分のノートをぺしぺしと手首のスナップだけで叩いて、まるで勉強から興味を無くしてしまったカンナ君を引き戻す。けれど彼女はううんと唸るだけで、机に突っ伏してしまった。
そこに、勉強に飽きて来たふっかとわたりが悪乗りして来る。
「全くだよね! ボロい癖に怖い話が無いとか有り得ないんだけど!」
教科書を閉じたわたりが息も荒々しく言った。レジュメを雑に揃えてファイルにしまうふっかの気怠い同意が後を追う。
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