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 彼の力が残っていたことに、驚いて大きく手が震える。しかし、それ以上に驚いたのは、少年が首を絞められてまでやって来た場所だった。 「きずぐち……あらわないと……」 「!?」  少年が、命がけでやって来た場所。それは、脱衣所だった。それもやって来た理由は、今正に襲われているこの手の、傷口を洗う為。  予想だにしない少年の行動に、思わず手は少年から離れた。  しかし、彼を恐れたこの手を、今度は彼自身が掴み取る。 「駄目だよ。ちょっと染みるけど、手当した方が絶対に良いんだよ」  戸惑う手を力任せに蛇口へと伸ばし、少年は水で手の傷口を洗い流した。  自分は、この手一つしか身が無い。それだと言うのに、少年は悲鳴の一つも上げやせず、涙だって一滴も流さない。今だかつて無い対応に、手は動揺していた。  おどろおどろしいこの手に、白くふわふわとした包帯などを巻き付けて。これはこれでミイラのようだと言われればあながち間違いでも無いが、やはり肌触りがふわふわとしていると、恐怖性に欠けるだろう。 「ね? 痛くなくなったでしょう?」  少年は、知人にでも語り掛けるように言う。少年の問いに応対すべきか迷う手は、まごまごと手を握っては開いてを繰り返す。 「ねぇ、お姉さんって、結婚してるの?」 「!?」  自分は、確かに姿カタチなど無い身のはず。それだと言うのに、少年はすぐさま自分を女だと見抜いた。手は驚き、ちょっとちょっと! と言わんばかりに、手招きを繰り返す。すると少年はニコリと笑った。 「分かるよ、だってお姉さんの手、すごく綺麗でツヤツヤだもん。顔だって、美人さんだって分かるよ?」 「……」  照れくさそうに、指先を曲げる手。少年はクスクスと笑うと、 「ごめんね、本当は顔までは分かんない。言い過ぎだった?」 と言葉を続けた。少年の冗談に脱力した手は、手首からがくんと項垂れた。 「でも、十~二十歳だよね。家族さんとか、彼氏さんとかはいたんじゃないの?」  少年に問われ、手は思い出す。自身の体があった頃を。
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