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それは、五年前。まだこの家に、活気があった頃のこと。
明るい家庭の中で生まれた少女、ナキもまた、大人しい性格ではあるものの、家族の笑顔につられて微笑んでしまうような可愛らしい子であった。
「ナキ、ちょっとコウちゃんと出かけてくるから、お留守番お願いね」
「うん、わかった」
その日、母親は息子の浩太を連れ、買い物へと向かい、少女は家で一人留守番をしていた。
早くに父親を亡くし、母の手一つで育てられてきたナキ。ゆえに時折父親と共にいる子供達を羨ましそうに見つめる時もあったが、母親に気付かれないように本で顔を隠していた。
今日も同様に本の世界に没頭して顔をうずめるナキだったが、そこへ、電話が一本鳴る。
ジリリリリリリ。
ジリリリリリリ。
ジリリリリリリ。
口下手なこともあり、電話は取らないようにしているナキ。放っておけば鳴り止むものだと思っていたのだが、今回は妙に長い。
ジリリリリリリ。
ジリリリリリリ。
ジリリリリリリ。
ジリリリリリリ。
ジリリッ。
最後、電話の音は強引に止められたかのように止まった。
向こうが痺れを切らして切ったのだろうか。母親には悪いが、出なくて済んだ。ナキは安心した。
しかし、その直後。
ドンドンドン。
ドンドンドンドン。
ドンドンドンドンドン。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン。
我が家の扉を激しく叩く音がする。
「何……?」
読んでいた小説がミステリーであったことから、更に緊迫感が迫るナキ。
先程の不審な電話の直後に、玄関扉を誰かが叩いているだなんて。ナキは恐ろしくなったものの、その叩く主を突き止めたくなった。
一歩一歩、玄関へと歩み寄る。近づけば近づく程、大きく、上下左右から振動も伝わってくる叩く音。
玄関に立ち、唾を飲み込んで深呼吸。ナキは、ゆっくりと、ドアスコープに目をやった。
――目玉だ。
「……きゃっ!!」
ナキは思わず声を上げ、腰を抜かして倒れてしまった。
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