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目玉は流血しながらグリグリと動く。少女の叫び声を聞いて、中に人がいることを確認したのか、扉を叩く音は更に強くなり、次には叩く手の数が増えたことが分かった。
重なる叩く音。少女が這いつくばって逃げようと試みて背を向けたその瞬間、扉が力技で強引に開けられそこから無数の手が少女を襲った。
「ナキちゃん!!」
ナキが顔を上げると、そこにいたのはナキ達の隣に住む聡美(さとみ)おばさんだった。その後ろには二人の警官が立っており、深々と頭を下げる。無数の手は、この人達のものだったのか。ナキは安堵した。警官の言葉を聞くまでは。
「ナキさん。貴方のお母さんと、弟さんが、お亡くなりになりました」
言葉を失った。周りには沢山の人がいるのに、目の前は真っ暗になった。
ウソですよね? 尋ねる声すらも失って、おもむろに顔を上げると、警官は言葉を続ける。
「帰り道、信号無視した車と衝突し、二人共病院に着く前に……申し訳ございません」
警官は、悪いのは自分ではないものの、深々と頭を下げてナキに謝った。
聡美おばさんがナキを抱きしめ、
「うちにおいで」
と、声をかけてくれたが、彼女の誘いにナキは首を振った。
「お願い。今日一日、この家で考えさせて」
ナキに面と向かって言われてしまった以上、聡美おばさんもそれ以上はおいでと言えなくなった。
「そう。辛くなったら、何時でもうちにおいでね」
聡美おばさんは多少の心配を持ちながらも、警官と共にナキの前から去って行った。
――
皆が去った後、ナキは自室へと戻り、机の引き出しを探った。
その中から一つのカッターを見つけ出すと、今度は浴室へと移動する。浴槽に湯水を入れる最中、ナキは白い左手首へとカッターを深く刻み付けた。
激しい痛み。だが、その直後に安堵する。
これで、二人の下へ行けるのだ。
カッターが浴室に落ちる音は激しく流れる湯水の音でかき消され、ナキはゆっくりと眠りについた――。
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