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―― 「まぁ、その姿になるくらいだ、辛いことがあったんだろうね」  少年の言う通りだ。ナキは頷くように手を折り曲げる。  ナキは、翌朝冷たくなった状態で聡美おばさんに発見された。無論、命の灯はとうに消えていた。  あれ程二人に会うことを望んで死んだというのに。やはり、自殺をした自分への罪なのか。ナキの遺体が運ばれ、墓へと供養された後、気付けばナキはこの家の一体となっていた。それが、今の彼女の”手”のみの姿である。 「それで、憂さ晴らしに僕を襲ったの?」 「!!」  ナキは、必死に手を左右に振る。  そう。今までこの家に住みつこうとした人間を幾度となく襲ってきたが、それは決して恨みや怒りがあるのではない。  ただ、ナキはこの場所に一人でいたかった。それだけなのだ。 「大丈夫。分かるよ、お姉さんの気持ち」  少年は、ナキよりも大人びた口ぶりで言う。彼は一体何者なんだろう。疑問が一つの興味になった。 「でもね、僕もここを離れるわけにはいかないんだ。頼むよ。もう少しだけここにいさせて」  少年の頼み。まだ彼に対する疑いもあったが、しょせん自分はただの手だ。彼のように歩くことも食べることも寝ることも出来ない。この家を有効活用などしてやれないのだ。  少しの間なら。ナキは手を折り曲げて、同意した。
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