旅の一行

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「…不安というのはないです。今回は本当に判定だけだし。ただ、結界構築できなかったときの彼らの落胆を思うと…」 「そこまでは負えない」 「そうですね…」 ミナは、ふっと豆茶の湯気を吹いた。 ミナには彩石の判定しかできない。 術者はサリと、ザクォーネ王国の者たち。 ふと、デュッカがミナの耳に触れた。 「しようのないやつだ」 「えへん!」 わざとらしい咳が響き、デュッカは煩そうにそちらを見た。 展望喫茶室にはほかに、イルマとパリスとセラムがいて、違う席に着いていた。 3人ともそっぽを向いていたが、今の咳払いはイルマに違いない。 旅の間はミナと一緒にいる時間が多いが、邪魔者も多い。 なんとかならないものかと、デュッカは短い溜め息をついた。 そんな5人から離れた席で、ザハリラはひとり、流れる景色を驚きと焦燥が交じる顔で眺めていた。 バルタ クィナールは高速船だ。 その速度は流れ行く景色から、ザハリラがアルシュファイド王国に向かったときの船とは段違いであることが判る。 だが、そんななか、急激に焦りが湧き上がった。 ここ数日なかったそれに、ザハリラは呑み込まれそうだった。 「…食堂に行きませんか」 掛けられた声に、はっとして顔をあげると、ミナの不思議な瞳がザハリラを見下ろしていた。 じっと見つめられると吸い込まれそうだ。 「はっ、食堂っ、ですかっ?」 ミナは、こくりと頷いた。 「お昼ご飯の時間ですよ」 いつの間にそれほど時が経ったのか。 返す言葉を失っているザハリラの視線を捉え、ミナは言った。 「とにかく今は、ザクォーネに向かっていますから。食べるものを食べて、備えましょう」 ザハリラは目を(しばたた)かせた。 まだ焦る気持ちはあるけれど、その気持ちに呑み込まれそうな感覚は消えた。 「は、はあ…お、お世話をかけまして、どうも…」 「そんなことはないですよ」 ミナは、にっこり笑ってそう言った。 促されて食堂に下りると、ザハリラはミナとデュッカと同じ机に着く。 ほかの者はまだだ。 給仕が来て、ただいま用意します、と言いながら水を配っていく。 「…ザハリラさんはザクォーネ国内全部回ったんですか?」 ミナに聞かれ、ザハリラは頷いた。 「え、ええ、国境は全部回りましたから、その途中の町なども1度くらいは通ったはずです」 「特に変わった町なんてありました?」
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