13人が本棚に入れています
本棚に追加
―Ⅴ―
ザハリラと分かれたミナは、自分に宛てがわれた部屋に戻って休むことにした。
眉間に皺を寄せるデュッカには、少し笑って大丈夫ですよと言う。
先ほどからミナは、ザハリラに対し、異能のひとつである風の力を使って、その心を宥めて穏やかにし、今回の旅の目的のために気持ちを奮い立たせていたのだった。
異能にはほかに、土、水、火の力があり、ミナは、そのすべてが使える代償のように、扱える力量がとても小さい。
そのため、ほんの少しの使用で限界を迎えるのだ。
デュッカはそれを心配している。
信用されないのは、これまでのことがあるため仕方ない。
それでも、ミナは一応、限界に達しないよう、言葉やそこに在る土、風、水、火を利用するようにはしている。
だが、伝心の特性を持つ風は、微力でも使い勝手がいいので、どうしても、やや、やり過ぎるところがあるのだ。
伝心は、心を伝えるので、術者の心根が重要になってくる。
デュッカは、身内に持つ風の力量はとてつもなく大きいものの、心根の部分で、ミナの代わりができない。
せめて事前に止めたいのだが、いつの間にか終わっているのだ。
デュッカは苛立たしげな息を吐いて、ミナが入った部屋を離れた。
そのまま鍛練場に行くと、数人のハイデル騎士団がいて、デュッカは彼ら…マルクトとファルとシェイドに打ち合いの相手をさせる。
やってみると、マルクトは身軽で、どうもデュッカの動きを読んでいる節がある。
ファルも身軽だが、それは風に煽られて舞う木の葉のようで掴み所がない。
シェイドは、その打ち込みに、厚みのある鋭さを持っていて、デュッカは、護衛としての彼らの実力に満足し、荒れた心を落ち着けた。
船は順調に進み、一行は思い思いに1日を過ごすと、夕食で食堂に集まった。
昼からずっと休んでいたミナも元気そうな姿を見せ、船長ライネスらと共に机を囲んで食事を摂った。
「予定通り8時にはセムズ港に着く。それまでゆっくりしていなさい」
ライネスの言葉に一同は頷き、食後は少し展望喫茶室で話した。
「…バルタ クィナールはセムズ港より少し離れた場所で停泊している。港でひと月以上停泊できないのでな。だが、知らせがあればすぐに向かう」
「ありがとうございます」
ミナの礼にライネスは頷いて、続けた。
最初のコメントを投稿しよう!