13人が本棚に入れています
本棚に追加
―Ⅱ―
リンシャ王国の王都ハバナムに着くと、船を降りて宿に向かう。
往きと同じ豪奢な建物に迎えられ、一行は旅装を解いて19時に食堂に集まった。
船で聞いた漁村の暮らしぶりを考えたら、ここはまるで別世界だなとミナは思った。
アルシュファイド王国では意識することはないが、この国では職業か地域、またはほかの何かによって、生活に格差があるようだ。
「明日は船の時間に合わせて、7時半ばに出発する。食事は6時半ばだ」
食事が終わるとカィンがそう告げ、一行は食堂を出て、談話室へと向かう。
ミナは、ふと窓に寄り、そこから街路を見下ろした。
酔客が多いらしく、足元が危うい者が幾人かいる。
そうしたなか、歩いてきた少年が、酔客のひとりにぶつかり、怒鳴られながら路地に入りこんだ。
少年はそこで、何やら手元を確認して、立ち去ろうとする。
すると、突然大声をあげた酔客…少年とぶつかった男が、来た道を駆けて戻ってきた。
少年のいる路地を見て、逃げる間を与えず掴みかかる。
思わず身を乗り出すミナの肩を、押さえる手があった。
少年を殴ろうとした男が目標を捉えられず、空振りして転ぶ。
少年はその間に逃げ出し、転んだ男は毒づいて、側に落ちていた何かを拾った。
どうやら財布だ。
少年が奪ったものらしい。
「ありがとうございます」
ミナが、肩を押さえるデュッカを振り返って礼を言った。
酷いことにならないよう、いや、酷いものを見せないように、風を使って男と少年を引き離したのだ。
「…おまえにできることは限られている」
「知っていますよ…」
今ここで少年を助けても、またやるのだろう。
こんなことを無くすには、少年の生活が変化しなければ。
恐らく彼だけではない。
全体を変えなければ。
それには遠大な計画が必要だ。
それはこの国の為政者がすること。
ミナは遠い西大陸の王子たち、王たち、そしてサラナザリエやホステナ、クリセイドを思った。
彼らのような為政者なら、きっと国を建て直すだろう。
この国にもいるだろうか。
彼らのように民を思う者が。
ミナは意識を切り替えて、仲間たちのいる談話室に向かった。
今はただ、無事に帰ることが、自分にできることだった。
最初のコメントを投稿しよう!