復路

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       ―Ⅱ―    リンシャ王国の王都ハバナムに着くと、船を降りて宿に向かう。 往きと同じ豪奢な建物に迎えられ、一行は旅装を解いて19時に食堂に集まった。 船で聞いた漁村の暮らしぶりを考えたら、ここはまるで別世界だなとミナは思った。 アルシュファイド王国では意識することはないが、この国では職業か地域、またはほかの何かによって、生活に格差があるようだ。 「明日は船の時間に合わせて、7時半ばに出発する。食事は6時半ばだ」 食事が終わるとカィンがそう告げ、一行は食堂を出て、談話室へと向かう。 ミナは、ふと窓に寄り、そこから街路を見下ろした。 酔客が多いらしく、足元が危うい者が幾人かいる。 そうしたなか、歩いてきた少年が、酔客のひとりにぶつかり、怒鳴られながら路地に入りこんだ。 少年はそこで、何やら手元を確認して、立ち去ろうとする。 すると、突然大声をあげた酔客…少年とぶつかった男が、来た道を駆けて戻ってきた。 少年のいる路地を見て、逃げる間を与えず掴みかかる。 思わず身を乗り出すミナの肩を、押さえる手があった。 少年を殴ろうとした男が目標を捉えられず、空振りして転ぶ。 少年はその間に逃げ出し、転んだ男は毒づいて、(そば)に落ちていた何かを拾った。 どうやら財布だ。 少年が奪ったものらしい。 「ありがとうございます」 ミナが、肩を押さえるデュッカを振り返って礼を言った。 酷いことにならないよう、いや、酷いものを見せないように、風を使って男と少年を引き離したのだ。 「…おまえにできることは限られている」 「知っていますよ…」 今ここで少年を助けても、またやるのだろう。 こんなことを無くすには、少年の生活が変化しなければ。 恐らく彼だけではない。 全体を変えなければ。 それには遠大な計画が必要だ。 それはこの国の為政者がすること。 ミナは遠い西大陸の王子たち、王たち、そしてサラナザリエやホステナ、クリセイドを思った。 彼らのような為政者なら、きっと国を建て直すだろう。 この国にもいるだろうか。 彼らのように民を思う者が。 ミナは意識を切り替えて、仲間たちのいる談話室に向かった。 今はただ、無事に帰ることが、自分にできることだった。
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