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―Ⅲ―
翌日は雨だった。
アルシュファイド王国では晴天が多い。
雨が降るとミナは、そういえばこんな天気もあるんだなと思う。
そう激しくもないので問題なく船に乗り、出港した。
個室に入って雨に煙る湖を見る。
それはどこか捉えどころがなく、美しい光景だった。
茶の時間が近付くと、サリとミナは護衛たちと階下におりて、茶と菓子を求めて歩きまわる。
ちょうどいい茶菓子を見付けて個室に戻ると、見知らぬ男がこちらを見た。
彼は、ふと微笑むと、サリたちに近付いてきて握手を求めた。
「王城書庫収集官のジーク・マロウと申します。彩石判定師殿、側宮殿、結界構築お見事でした」
「王城書庫…」
ミナの呟きに、ジークは、はい、と頷いた。
「王城書庫管理官マエステオ・ローダーゴードの部下です」
ミナは嬉しくなって微笑んだ。
ミナが旅に出る前に見た地図などは、こうした者たちによって作られたものなのだ。
「いろんな資料を集めている方ですね。お世話になってます」
「いえ、そのような…お役に立てて光栄です。これからアルシュファイドに帰られるとか?」
「はい。あなたはまだお仕事ですか?」
「そうです。よろしければカッツォルネまで同行させていただけますか?」
「構わないと思いますが…」
ミナの視線に応えて、デュッカが頷く。
茶菓子が足りなくなったが、ジークは笑顔で断った。
サリはジークが各国を渡り歩いていることを知ると、セルズ王国の様子を知っているかと尋ねた。
ひと月ほど前、結界修復に携わった国だ。
「直接には知りませんが、噂は聞いています。民は活力を得て、王たちは領主や中央政府の力を借りて、徐々に民の信頼を得ているとか」
「ではもう心配ないですわね?」
ジークは困ったように笑った。
「まだまだ、これからです。特に王たちは。ですがもちろん、結界には何の不安もありません」
サリはそれを聞いて、ひとまず胸を撫で下ろした。
「ジークさんはこの辺りを中心に回っているのですか?」
ミナが聞くと、そうですね、と少し考えるようだった。
「私たちは情報を求めて動いているのですよ。ですから、リンシャ国でチタ国の噂を聞けば、それを確かめに行くわけです」
「ではリンシャからサールーンに行くこともあるのですか?」
ジークは少し笑った。
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