復路

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ここは東西連峰を挟んで大陸の東。 サールーン王国は大陸の西の端だ。 「いえ、さすがにそこまで大きくは動きません。そういうときは、近い者に情報を伝えて、確かめるよう頼むのです」 ミナは頷いた。 「では、リンシャ国の中部、南部のことはご存知ないですか…」 ジークは首を傾げた。 「中部は、森が深く、人々は高台に住んで、傾斜を利用して狭い土地を耕しています。南部は開けた土地があって、作物がそこそこ育っていますが、ビルデバランが西側から徐々に入ってきて、不安が広がっています。このまま侵略されるのではないかと」 ミナは眉根を寄せた。 そんな状況なら、リンシャ王国は新たな道どころではないだろう。 「そうですか…」 「何かご懸念でも?」 ミナは、はっと顔をあげて首を横に振った。 「いえ、どの国も隣国が近いと大変なんだなと…」 言ってから、ふと思いついて聞いてみた。 「例えば王都が今以上に栄えたら、国力が増したということで南部の動きが収まったりはしないでしょうか?」 ジークは、そんなことを聞かれるとは思っていなかったので、面食らった。 「えーと…ああ、確かそんなこともありましたよ。ケイマストラにカラザールが侵攻してきたときに、中央で軍備拡張したという噂が流れて、カラザールが逃げ腰になったところで南部の兵が追い返したと…その後すぐ、絶縁結界が張られたんです」 しかし…とジークは首を傾げた。 「軍備拡張と王都繁栄では、違いすぎますね…」 言ったものの、確信は持てなかった。 ケイマストラ王国の軍備拡張はただの噂だったのだ。 王都の繁栄、すなわち国力増強は軍備拡張も含むだろう。 その様な条件下で噂が広まれば、そしていくらかの兵を南部に配備すれば、抑止力にもなりそうだ。 「ですが、持っていき方次第では、抑止できるかも…」 そこまで言って、ジークは、はたとミナを見た。 「なぜまたリンシャのことを?」 ミナは曖昧に笑った。 ただの思い付きなのに、何度も話すのは気が引けた。 だが聞くだけ聞いて何も話さないのは心苦しい。 「その…リンシャも巻き込んで交易の道筋を造ったらどうかなと思っただけなんです」 「交易ですか…しかしそれは、商人がいないと成り立ちません」 「商人は、アルシュファイドにいますよね」
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