復路

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       ―Ⅵ―    一行が就寝して、日付も変わり、2時を過ぎたころ。 ライネスは音声伝令管からの警告の声に飛び起きた。 急いで船橋に行き、状況を問い質す。 「海賊らしき船影を発見。全員起こして、警戒に当たっています」 単眼鏡で見ると、22時の方向に黒い影がある。 「俺が行ってくる」 不意に出入り口から声がして、振り向くとやはりデュッカだった。 風の動きに敏感なので、船員たちの慌ただしさに、起きたのだろう。 「これは俺たちの仕事だが…」 「騒げばミナが起きる」 「ああ、そうだろうとも」 ライネスは仕方なさそうに笑い、では任せる、と言った。 デュッカは頷いて、暴露甲板に出ると、海賊船らしき影に向かって飛んだ。 見張りの者を背後から襲って気絶させ、船の様子を見たが、どうも海賊とは違うようだ。 デュッカは仕方なく気絶させた男を起こし、話を聞いた。 すると、この船はビルデバラン共和国のもので、彼らは国から逃げ出して来たのだと言う。 船員のほとんどは子供で、途中、家族も拾って来たのだとか。 面倒なことになった。 そう思ったが、見て見ぬふりもできない。 停船するように命令し、デュッカはライネスに向けて伝達を放った。 バルタ クィナールは一定距離を置いて停船し、風でやり取りする。 「まずはアークに連絡だが…叩き起こすことになるな」 ライネスは溜め息をつく。 若い王にあまり負担をかけたくない。 「まずはユラ-カグナに届ける。だが、このまま朝になるのはまずい。救命艇があるだろう」 デュッカの言葉に、ライネスはまさかと口を開ける。 「連れていく気か…」 「軍艦を盗んだんだ、戻れば命はあるまい」 ここで見捨てたことを知れば、ミナの衝撃はいかばかりか。 「50人ほどだそうだ。乗れるだろう」 ビルデバラン共和国の物は使えない。 ひとまずアルシュファイド王国まで連れていき、あとのことはアークの判断に委ねるしかない。 「また重荷が増えるな…」 アークの心労を思い、ライネスは溜め息をつく。 「急がなければ夜が明ける」 迷っている時間はない。 ライネスは船員に救命艇をひとつ残して下ろすように指示し、ビルデバラン共和国の船に乗った全員を移した。 デュッカは空になった船を操船し、できるだけ遠くに運んで戻ってきた。 「少し速度を落とす。到着時間は遅れるが、今日の昼までには着くだろう」
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