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―Ⅱ―
アルシュファイド王国は平和な国だ。
地理的に、巨大かつ峻厳なふたつの連峰が大陸を南北に貫き、その国土を東西の隣国より隔てていることもあるのだが、この国にはもうひとつ、国土を守る盾がある。
それは、国を治める双王の1人である祭王、ルシェルト・クィン・レグナが保つ絶縁結界の存在だ。
ルシェルト…ルークは、その結界の具合を確かめて、深く頷く。
絶縁結界とはその内側と外側を完全に隔てるものだ。
行き来をするには、それなりの手順が必要で、ルークは今、その手順の要のひとつである結界石の置かれた場所に来ていた。
絶縁結界は、数点で操作され、一時的に開閉されるようになっている。
扉を開け閉めするようなものだ。
その扉番に向かって、ルークは笑顔を向けると、うん、大丈夫と言った。
相手の顔の緊張に、安堵が混じる。
役に就いてまだ日が浅いのだというその青年は、ルークに向かって、ありがとうございます、と騎士の礼をした。
右手を左胸にあて、上体を傾けるのだ。
そのきちんとした動作を見て、ルークは幼馴染みのシィン…ルゥシィン・ヴィーレンツァリオを思い出した。
彩石騎士の筆頭にして慕い合う青年だ。
そういえば、出てくる前、何か拗ねていたっけ、と思い、笑顔を浮かべる。
年上だけれど、かわいいと思ってしまう。
ルークは朝の空気を吸い込み、気持ちを改めた。
今は大事な仕事の最中だ。
そのあと、いくつかの確認をして、スー…彩石騎士スー・ローゼルスタインとともに、昨日から、ひと月以上滞在することになっている船、マデリナ・クィッテに戻る。
今朝は少し早く起きたため、抜き打ち視察に来た。
驚いた騎士たちの顔を思い出して、ルークはまたひとり、笑みを漏らす。
祭王の巡視は、いつもは事前連絡をするのだが、今回は必要を感じて、急遽視察をすることに決めたのが、ゆうべ。
マデリナ・クィッテの船長、リゥウォート・リィザフに断って、今朝、出掛けてきたのだ。
船上では、そのリゥウォートが迎えてくれ、どうでしたと聞いてくる。
「問題ないよ、大丈夫」
そう言うと、リゥウォートは頷いて、今日これからはどうなさいますかと聞いてきた。
「うん。やっぱり扉を回ってみるよ。再点検したいから、頼むよ」
リゥウォートはまた頷き、サーシャ国の巡視船が増えているようだとの話をした。
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