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―Ⅳ―
バルタ クィナール乗船が初めてのアルは、張り切ってファイナと共に船内探検を始めることにした。
案内をするのは、客室係のロクサール・ジェネプリ。
青い髪の青年は、丁寧に船内を案内してくれた。
船首楼にある展望喫茶室から始め、その下の食堂から、中央の遊歩甲板に出る。
そのすぐ下の展望室から数段下がる船尾の集会室に下りると、遊戯室、談話室と順に上がっていき、最後に船尾楼の最上層である暴露甲板の鍛練場へ。
そこで鍛練場を見渡したアルは、ロクサールに手合わせを申し出た。
客室係も、騎士のひとりなのだ。
ロクサールは驚いたが、これを受け、潮風のなか、ふたりは鍛練棒を持って向かい合った。
合図はなく、ある瞬間に互いに走り寄り、打ち合った。
ロクサールの動きはしなやかで、海の大きなうねりを見ているようだった。
アルは初めて見るその動きに惑わされたが、次第に慣れ、やがて楽しんで打ち合っていた。
そうするうち、周りにハイデル騎士団や側宮護衛団が集まってきて、数人ずつでまとめて打ち合いをすることになった。
「ほどほどにしとけよ」
言いながら、仕方ないなと笑うファイナに、俺は手は抜かねえ!と答え、アルは楽しそうに打ち合いに飛び込んだ。
船首楼の展望喫茶室では、ミナがその様子を眺めて、なんだか楽しそうだねえ?と言っていた。
「なんでしょう。鍛練…ですかしら?」
サリもそちらを眺めて、本当に楽しそうだと羨ましく思い、また、交ざりたくもなった。
その様子に笑みを浮かべて、カィンが釘を刺す。
「サリ?今回の目的は結界構築だよ。忘れないでね」
サリは、もちろん忘れませんわ!と言ったが、やはり鍛練場の方が気になるらしい。
「見に行くだけならいいんじゃない?一緒に行ってあげたら?」
ミナに言われて、カィンはサリを見た。
「行きたい?」
「いっ、行きたいですわ!」
身を乗り出して言うサリに頷いて、じゃあ行こうかと席を立つ。
ふたりのあとにリザウェラとスエイドがつき、展望喫茶室を出る4人を見送ったミナは、豆茶の香りを楽しんだ。
広い窓からは、陸地が流れて見える。
船の目的地はチタ共和国のセムズ港だ。
20時間以上の船旅になる。
「不安はないか」
不意に、同席していたデュッカに聞かれて、ミナは少し考えた。
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