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最初の3日間は本断食に向けての慣らし期間だ。
この1週間で森丸寺で出される料理にも慣れて、たぶん胃も小さくなったのだろう。量はかなり少量だったのに、それほど飢餓感が無い。
だけどやっぱり薄味の食事に私は物足りなさを感じていて、まだ『抜けきっていない』のだと実感した。
いよいよ本断食に突入すると、いつものように座禅を組んでいても、どんどん意識がハッキリとクリアになっていくのを感じた。
体の中から無駄なものとか毒素が抜け出して、制御不能だった食欲もすっかり落ち着いた。
同時に味覚が冴えてきて、味つけなんてしていないただ絞っただけのミックスジュースの、野菜そのものの味の濃さに気がつく。
精神統一に集中して目をつぶると、無音でつまらないだけと思っていた中に、森の音や水の音が聞こえた。
「隆ちゃん」
「……なに」
本当は喋ってはいけない時間だけど、私は思わず声をかけた。
「今なら悟りが開けそう」
「……」
隆ちゃんから返事は返ってこなくて、多分後ろで呆れているんだろうけど、別にそれでも構わなかった。
あんなに嫌だ嫌だと思っていたのに苦痛はいつの間にか消えている。
森丸寺に来なかったら、まだあの狭いワンルームで一人ハンバーガーとかカップラーメンを貪っていただろう。
そう考えると、ちょっとゾッとする。
満腹にはなっても、一瞬だけ満たされても、きっと永遠に本当の満足感は得られない。
本断食が終わって、後半3日は回復期だ。
休んでいた内臓の為にまずは重湯から口にする。
赤ちゃん並になった消化機能。
普通の食べ物が食べられるよう重湯、お粥、と段階を踏んで徐々に馴らしていく。
お昼ごはんはお粥に梅干しが一つだ。
そしてなんと、これが隆ちゃんの言っていた『世界一美味しいもの』だった。
以前の私が聞いたら暴動でも起こすところだ。
「いただきます」
そういえば、一人暮らしをしている時に『いただきます』なんて言ったことが無いかもしれない。
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