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目の前の膳には精進料理が並んでいる。
どれもこれも地味ぃーな薄味で、朱色の小さな漆器にちょこちょこっと載っているだけのそれらは、もういっそ仏さんのお供えにしたら完璧だと思う。
素材の味100%、人参の煮しめを咀嚼しながらコンビニのチキンに思いを馳せる。
チキンチキンチキンチキンチキンチキン……
「チキンチキンうるせぇ」
「え、声に出てた?」
向かいあって食事をしていた隆ちゃんに睨まれて、口をつぐむ。
つるりと剃られた頭がまだ見慣れない。
小学生時代の隆ちゃんの髪は勿論フサフサだったし、長いこと会っていなかったせいで始めは全く気づかなかった。
「僕、舞子さんと小学生の時に同じクラスだったんですよ」
お世話になるからと一緒に挨拶に来た両親に対し、穏やかに微笑んでそう言うものだから、マジマジと見てみれば確かに涼しげな目元に面影がある。
昔から隆ちゃんはカッコ良くてモテモテで、最近森丸寺が宿坊として人気が出てきたというのも、多分隆ちゃん目当ての女性が多いのだ。
隆ちゃんが同級生だと知った両親は大喜びで「ビシバシ厳しくお願いします! 」などと余計な事を言い残し、私を置き去りにした。
やんちゃな印象があった隆ちゃんだけれど、出家して落ち着いた大人に成長したのだと頷いていれば、親が帰って2人きりになった途端浮かべていた笑みを消し
「お前、本当に米子なの?農家の娘だからって米食い過ぎたんだろ」
と、実にふてぶてしくのたまった。
奴は、裏表の滅茶苦茶激しい大人に成長していたのだ。
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