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いつも通りの朝4時半起床。
今日の朝の座禅担当は隆ちゃんのお父さんの大観(たいかん)住職だ。正真正銘の穏やかな住職はやたらめったら叩くことなどしないし、一度寝こけて渇をいれられた時も、パシン!と大きな音がした割には全く痛くなくて、これが熟練の技かと驚いた。
別にある大広間では今、短期の宿泊者が集まって隆ちゃんの読経に耳を傾けているはずだ。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の灯りの中響く独特の声は、初めて聞いた時こそ背筋がシャンとしたけれど、何度も経験するうちに眠気を助長するものに変わってしまった。
座禅、掃除、写経のエンドレスリピートに加え、スマホなど外部と繋がるものは一切禁止(というか禁止されてなくても圏外)。
食べ物は玄米、野菜と、少しの魚。そして肉の代替品として大豆の加工食品。
こんな、犯罪者の更正プログラムも真っ青な事をひたすら続けてはや1週間。
そろそろ我慢の限界です。
食事の時間になって、お腹は空いているものの全くテンションは上がらず。
箸で掴んだ高野豆腐を見つめ、これでもかと念じる。
これはチキンこれはチキンこれはチキンこれはチキン……
「だから、チキンチキンうるせぇ」
「チキンとなら結婚出来る……って、え。声に出てた?」
ハッと我に返った私の前には呆れ顔の隆ちゃん。
「言っとくけどチキンにも選ぶ権利はあるからな?」
今朝は女子大生とおぼしき5人組と食事時間が一緒だった筈なのに、広間には私と隆ちゃんしか残っていなかった。
私と2人きりなのを良いことに、隆ちゃんの声はさっきまで皆に法話を聞かせていたものよりずっと低い。
「あれ、他のお客さん達は?」
「とっくに畑行った」
寺の裏には小さな畑もあって、自然とのふれあいも修行の一環だ。
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