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初めてそのケーキ屋さんに訪れたのは、春に母が注文した僕のバースデーケーキを受け取りに行った時だった。
家からも近い、小さなケーキ屋さん。
最近出来たばかりだとかで、お客さんもそう多くない。
店内はパティシエの男の人が一人と、従業員の若い女の人が一人。
多分、夫婦でこの店を始めたんだろう。
だって、ただのパティシエと従業員にしては仲が良すぎる。
それなのに、僕はあの人に恋心を抱いてしまった。
バースデーケーキを受け取る時に『高校生にもなってチョコプレートに名前を書いてもらうのが恥ずかしい』みたいな話を照れ隠しでした時、奥の厨房からパティシエの男の人が出てきて。
『そんな事無いよ。誕生日おめでとう』
その些細な一言だけで、僕は恋に落ちてしまったんだ。
それからも、休みの日にはそのケーキ屋さんに通った。
本当は毎日でも通いたいくらいなんだけど、僕のお小遣いじゃどうにもならない。
だから月に2回とか3回とか、買う物もケーキだけじゃなく安いシュークリームやクッキーで我慢している。
それにパティシエさんに会いたいだけじゃない、ここのケーキは本当に美味しいんだ。
彼を見てるだけ、それだけで満足だった。
それに彼には奥さんが居るし、男に恋したって僕も男だ。
報われる筈なんか無いのは解りきっている。
だから、僕は期限を決めた。
次の春に訪れる僕の誕生日、それまでにはキッパリ諦めると。
どうしようもないこの想いを消してしまうには、それでも時間が足りないかもしれないけど。
そうやって期限を決めなければ、きっと諦める事は出来ないだろうから。
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