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初めて足を踏み入れた厨房は、冷蔵庫も棚も作業台も全部銀色で統一されている。
ひんやりとした冷たさも感じるが、バニラのような甘い香りが漂っていて、僕はドキドキしながら厨房内で勧められた椅子に腰掛けた。
「こっちがカボチャのロールケーキ、こっちがカボチャのプリンタルト」
パティシエさんが僕の目の前に小さく切り分けたケーキを乗せたお皿を置いてくれる。
「飲み物はコーヒーでいい?」
「いえ、あの、お構いなく……」
パティシエさんにじっと見つめられていると緊張して、フォークを持つ手が震えてしまう。
それでも何とかロールケーキにフォークを突き刺して口に運ぶと、しっとりした生地にほんのりカボチャの味がするクリームが口の中に広がって。
「美味しい……」
緊張もどこかに吹き飛んでしまうくらい、幸せな気持ちが胸を満たしていた。
「もうちょっと甘い方が良かったかな?」
「いえ、大丈夫です! この位の方が『もっと食べたい』って気になって止まらなくなります!」
大して上手い感想じゃないのに、そのパティシエさんは僕を見て嬉しそうに微笑む。
「プリンタルトは?」
催促されてプリンタルトも口に運ぶと、こちらもしっとりとしたプリン部分とサクサクのタルト生地がマッチしてて美味しい。
「こっちは甘さ控えめなんですね。ほとんどカボチャ味……」
「美味しくない?」
「美味しいです! でも、もっと甘さがあってもいいのかなって……」
「やっぱり上に生クリーム乗せるか。それで甘さを調整すれば……」
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