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僕みたいな子供の意見なのに、パティシエさんは真剣に聞いてくれて。
やっぱり優しい人なんだな。
僕の中の恋心が膨れ上がるのを止められなかった。
ダメだよ、パティシエさんには奥さんが居るのに。
僕なんかに好きになられても困るだけなのに。
パティシエさんと従業員の女の人が夫婦だとは、実際に聞いて確かめた訳じゃない。
でもあんなに仲がいいんだ、きっと間違ってない筈だ。
「ありがとう、参考になったよ」
「いえ……」
恋心を抱いている後ろめたさから、俯いたまま顔を上げられない。
もう今日はケーキも買わずにこのまま家に帰ろう、そう思ったのに。
「お兄ちゃん! サツマイモのモンブランのホールの在庫ある!?」
バタバタと慌てた様子の従業員の女の人が厨房に飛び込んできた。
「冷蔵庫に入ってる筈だけど」
「良かった! 今急にホールでの注文が入っちゃって!」
ホッと息を吐きながら、従業員の女の人が冷蔵庫からホールケーキを見つけ出し、「良かった、良かった」と店に戻って行く。
でも僕はとある違和感にその場を動けずにいた。
あの人、さっき『お兄ちゃん』って言ってなかった?
それってパティシエさんの事?
思わずパティシエさんの顔をじっと見つめてしまい、その視線に気づいたパティシエさんが「どうかした?」と首を傾げる。
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