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「お兄ちゃんって……」
尋ねるつもりじゃなかったのに、つい口から零れてしまったらしい。
パティシエさんは「あぁ……」と苦笑いを浮かべて。
「人手が足りないから、妹に手伝ってもらってるんだよ。恥ずかしい話、まだちゃんとした従業員を雇える程軌道にも乗ってないし」
「そう、なんですか……」
妹?
だからあんなにも親しげだったのか?
奥さんじゃなかった……。
これは僕にとっての希望の光なのか?
いや、勘違いするな。
奥さんじゃないとしても、僕に望みなんかない筈だ。
でも、やっぱり期待してしまう。
もしかしたら、なんて意味無いのに。
「そうだ、君、高校生でしょ? バイトとかしてるの?」
「いえ、してないです、けど……」
「良かったらウチでバイトしてみない? 給料は安いけど、売れ残りのケーキあげるよ」
ケーキの誘惑は魅力的だ。
でもそれ以上に、ここでバイトをしたらパティシエさんともっと近付けるんじゃないか、そんな打算が頭を過ぎる。
これ以上近付いても、結局は諦めなきゃいけないのに?
でも、もっと近くで見つめられるようになるだけでも幸せなんじゃないか?
それで、更にこの片想いが辛くなっても。
「考えておいてよ。というか……君がウチに来てくれたら、嬉しい、かな」
そう言ったパティシエさんが薄らと頬を染め、どこか照れ臭そうにしていて。
「え、あ、はい……」
もしかしたらこの片想いは、諦める以外の結末になるんじゃないか。
そんな仄かな期待が僕の胸を擽っていた。
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