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会社を出て向かった先は、着物の美人女将が切り盛りする小料理屋だった。
私とは居酒屋にしか行かないくせに、いかにも課長が好きそうなお店を知っていたものだと感心する。
予約していたものの、カウンター席しか空いておらず、私たちは水嶋課長を真ん中に横並びで席に着いた。
「とりあえず、生三つで」
出されたおしぼりで手を拭きながら、早速早瀬がビールを注文する。
手書きのおしながきに視線を落とし、私は気づかれないように小さな溜め息を吐いた。
正直、憂鬱以外のなにものでもなかった。
早瀬の笑顔を見るたびに、チクチクと胸が痛むというのに、その早瀬は私が咄嗟に吐いた嘘を真に受けて、私に協力しようとしているのだ。
自分だけ幸せになるのが悪いとでも思ったの?
水嶋課長だって迷惑だろう。
きっと、ここのお会計だって水嶋課長が払うことになるに違いない。
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