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ところが、早瀬は私が口走った言葉を別の意味にとらえたようで、急に神妙な顔つきになったかと思うと、厳しい口調で「まさか、不倫してるんじゃないよな?」と言い放った。
これには、私もムッとして、早瀬を睨むとバッサリと切り捨てた。
「付き合ってる人はいないって言ってるでしょ?」
確かに、28歳にもなって浮いた話のひとつもなければ、そんな誤解を招いても仕方ないけれど、早瀬にだけは言われたくなかった。
早瀬から目を逸らしてため息を吐くと気まずい沈黙が訪れた。
……バカだな。早瀬に悪気はないとわかっているのに、ムキになって言い返すなんて。
「ごめん」
「いや、俺もヘンな言い方して悪かったよ。……でも、なにが無理なんだよ?」
「それは……」
早瀬に見詰められると泣きたくなる。
もっと早く好きだと言えたらよかった。
そうすれば……。
いくら後悔してももう遅い。早瀬は別の女性と結婚を決めてしまったのだ。
「永野?」
「……課長」
「は?」
「私、水嶋課長のことが好きなの」
咄嗟に口にした名前に、早瀬は唖然とすると「ああ」とつぶやいて椅子に座りなおした。
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