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七時過ぎのオフィスはキーボードを叩く音だけが響いている。
残業は基本的に認められていないので、アシスタントは定時を過ぎると余程のことがない限り退社する。
私たちの部署は出張中の営業を除いた水嶋課長に早瀬、そして私の三人がパソコンで資料を作っていた。
「永野、まだかかる?」
「もう少し」
「じゃ、何か食べにいかないか?」
いつもの調子で早瀬が私に声をかけてくる。
本当は少し早瀬と距離を置きたい。そう思いながら、態度を変えるといろいろ勘ぐられてしまいそうで、私はいつものように差し障りない言葉を吐き出した。
「……早瀬の奢りなら」
「なんだよ、それ。俺が金欠なのは、永野が一番よく知ってるだろ?」
苦笑いを浮かべながら私を睨むと、早瀬はあろうことか水嶋課長に視線を移した。
ちょっと、早瀬?
嫌な予感がして、早瀬の言葉をさえぎろうとしたけれど遅かった。
「早瀬っ」
「水嶋課長、たまには軽く飲みに行きませんか?」
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