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「あら、それ嫌味?」
「……ゴメン。言い過ぎた」
「そうそう。人形は素直じゃなくっちゃね。あなたの本体の聖人は酷い奴だったけど、私のおまじないの威力はすごいでしょ?」
サナの問いにほんの少し肩をすくませて、聖人は床の掃除を続ける。
浮気者ですぐ他の女と寝ちゃう聖人を消して、私の人形と入れ替えたの……、と、ある日いきなり聞かされても、聖人にはどう答えていいものか分からなかった。
自分のご主人様であるサナの事は、嫌いじゃないし、ずっと仕えて行こうと思うが、自分の存在がいったい何なのか、時に分からなくて不安になったりもする。
能天気な人形作家のサナは、そんなことお構いなしに悩める客に「おまじない」を勧め、人形を売り続ける。
もう、今までに何人が、禁忌の愛の言葉をつぶやいただろうか。
《おまじないのドール、また一つ注文が入ったよ》
そのたびにサナは、満足げに笑うのだが。
その罪の重さは、いかばかりの物だろう。
ディスプレイのドールの肌の色が一番映えるからという理由だけで、満月の夜に開店するサナの店。
今宵も悩み多き人間界の夜が更けていく。
聖人は、少し憂いたガラスの瞳で満月を見上げた後、ドアのノブに「close」のプレートをそっと掛けた。
(END)
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