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半年前に知人の紹介で結婚した私には、45歳のバツイチの妻と、その連れ子である10歳の娘がいた。
妻の文恵は美人ではないが、素朴で従順で、文句ひとつ言わずに家事をこなしてくれる有難い女性だった。
DV夫に耐え切れず離婚して逃げて来たという事もあり、人畜無害な私にほっとし、尽くそうとしてくれている。
対して娘のマリカはまるで人形のようにきれいな顔立ちをしていて、そして性格は恐ろしくきつかった。
母親にも料理のメニューが気に入らない、買ってくる服のセンスが悪いと文句ばかり言い、そして母親はそれに対して「ごめんなさいね」、と謝るばかり。
まるでその娘の中身は、別れたDV夫の血肉だけでできているのではないかと、訝りたくなるほどだ。
もちろんそんな少女が、私に懐くはずもなく。
洗面所やトイレ、風呂の近くですれ違うだけで、まるで痴漢を見るような目で私を見て、体を退け、「あっちへ行ってよ」と睨みつける。
10歳でこれなのだ。中学、高校になるころには一体どうなるのだろうと泣きたくなり、マリカが起きている間はなるべく家に帰らないようにしていた半年だった。
幸い、家の事は妻がしっかりやってくれていたし、午前様になっても文句ひとつ言われない。
一か月前のその日も、行きつけの飲み屋でしこたま飲み、気づけば深夜0時を超えていた。
満月も美しいし、タクシーを拾うのをやめて3キロの道のりを徒歩で帰ろうか、などと考えながら通りを歩いていた時だった。
寂しげなシャッター通りから、誘うような光が漏れているのを見つけた。
あの『人形の家』が、店を開けていたのだ。
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