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へえ、めずらしいなと興味本位で店の前まで行くと、ドア横のディスプレースペースに、ほぼ等身大の女の子の人形が2体飾られていた。
ひらひらしたドレスを着て、裸足の足を投げ出して座っている。
その時の私の衝撃は、正直に言えばすさまじかった。
アンティーク人形と言えば、目のぎょろっと誇張されたキューピー人形の親玉のようなものを想像していたのだが、実際目の前にあるものはまったく違っていた。
滑らかで透き通るような肌、ほんのり桜色で艶めく唇、意思を持つように見つめて来る澄んだ瞳。すぐさま瞬きし、微笑んでくれそうなほどリアルで、そしてどのパーツも体の芯が熱くなりそうなほど愛らしかった。
「ビスクドールを見られるのは、初めてですか?」
不意に横から話しかけられ、私はガラスから身を剥がし、振り返った。
エプロン姿でそこに立っていたのは、20代後半くらいに見える柔和な顔立ちをした青年だった。
細身で背がすらりと高く、けれど穏やかな目元がどこかホッとさせてくれる。
「あ……。はい、すみません。あの、あんまりよく出来た人形だったもので」
食い入るように見てしまったことに恥ずかしさを覚え、つい声が上ずった。
「もし興味がおありでしたら、中に入ってごらんになりませんか? 店内にいるのは、55センチクラスの、少し小さめの子たちになりますが」
「いや、自分は人形なんて買うつもりはないですし……」
慌てて辞退すると店長らしい青年はやんわりと笑った。
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