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「個展みたいなものなので、気にしないでください。気まぐれに月に一度こうやって展示販売してるんですが、人形に紫外線をあてたくない都合で夜中しか店を開けないから、立ち寄ってくれるお客さんがいなくて、僕らも寂しいんですよ」
そうまで言われたら、正直断りづらい。
それに、これほどまでに美しい少女人形たちをもう少し見てみたいと思う気持ちも確かにあった。
ではちょっとだけ……と、渋々感を漂わせながら入った店内は、外の世界とはまるで別空間だった。
柔らかな木の素材で統一された店内には、小さめの椅子やソファーが置かれ、仕立ての良いドレスを着た少女人形たちがそこにちょこんと腰かけて、あどけないまなざしをこちらに向けていた。
中には男の子の人形もあったが、やはり自分が男だからだろうか、目が行くのは女の子の方ばかりだ。
無理に笑っている表情の物は無く、物思いからふっと顔を上げた時のように愛らしく、そのほんのり紅をさした頬の皮膚の下には、血が通っているようにしか思えない。
ドレスから出ている指は爪の先まで精巧に作られ、触ると温かいのではないかと錯覚を起こしてしまうほどだ。
それゆえに、スカートから覗く膝や足首の関節が、やけにロボットじみててグロテスクで、そのギャップにぎくりとしてしまう。
「球体関節人形なんです」
すぐ横で女の子の声がして私は飛び上がってしまった。
見ると、エプロン姿の華奢な高校生くらいの女の子が、にっこりしながら私を見上げていた。
「え……。あ、そうなんですね。……いや……ごめんなさい、もう一人店員さんがいらしたんですね。人形が喋ったのかと思って……。ごめんなさいね、ちょっとびっくりしました」
私が正直にそう言うと、女の子の店員はふふっと笑い、レジの奥の方に軽やかに去って行った。
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