DOLL

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「この店は、僕と彼女と、二人だけでやってるんです」 先ほどの青年は再び戻って来て、申し遅れました、と言いながら、自分の名刺を渡してくれた。 青年の名は柊聖人(ひいらぎ・まさと)。やはり彼が店長だ。 「店長さんが人形を?」 「ええ。サナと二人で」 「サナ? ああ、さっきの女の子? まだ未成年っぽかったけど、こんな深夜にバイトして、大丈夫なんですか?」 ついお節介かと思いつつ訊くと、店長は、「いえ、幼く見えるけどサナは子供じゃないので大丈夫なんです」と気さくに笑う。 そうか、女の子の年なんてものは、こんなオッサンには分からないもんなんだなと、私はあっさり納得した。 「そのサナちゃんって子が言ってたけど、今時の人形って言うのはみんな、球体なんとかってヤツなんですか?」 せっかくなので、暇そうな店長にそう訊いてみた。 「もともとはハンス・ベルメールという芸術家の前衛アートが発端なんですが、日本では1965年あたりから独自に発展して、今ではほぼ主流ですね。可動式の関節のおかげで、人間の子供のように柔らかな動きもできるし、愛着も沸くでしょ?」 店長は目の前にあった50センチほどの身長の人形を優しく持ち上げると、幼児を抱くようにそっと抱いた。 少女のアイスブルーの宝石のような目がすぐそばで私を見つめ、なぜか私はドキリとした。 その人形の目が、あの冷たい娘マリカによく似ていたからかもしれない。 けれどあの娘が、こんな優しい表情で私を見つめることなど、絶対にないのだ。
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