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「私の愛情が足らないんだと思います」
「でも、努力はされてるんでしょう?」
「もちろんです。でも、同じ空気を吸うのも嫌だって言われてしまって……。家に帰るのが辛いんですよ。……あ、すみません、こんな話を……」
「そのお嬢さんにそっくりな人形を作って、部屋に置くといいわ」
ふいに澄んだ声が私のすぐ横で響いた。サナがガラスのような澄んだ琥珀の目で私を見上げている。
「そんな……ダメですよ。私があげたものなんか、気持ち悪がってすぐにも叩き割ってしまいますよ」
「平気。入れ替わりのおまじないがあるの」
「おまじない?」
「サナ!」
すぐさま店長はサナの言葉を遮った。
聞かせてはならない秘密でもあるのだろうか。
私は戸惑いながら二人を交互に見た。
サナは悪びれもせず、澄ました表情で、「人形のほうがこのおじさんを愛してくれるのに」と、ぽつりとつぶやき、隣の部屋に消えた。
私はなぜかそわそわした気持ちでその背中を見送った。
その少女の細い手足、柔らかそうな表情、グラスアイをはめたようなキラキラした瞳。
人形だと言われた方がしっくりくるキュートな容姿に胸がざわついた。
そして、サナが言い残して行った言葉……。
「あの……柊さん。サナちゃんが言ったおまじないって……」
けれど店長は苦い笑いを浮かべて否定する。
「あの子は夢見がちな子ですから、気にしないでください。でも、お嬢さんによく似た人形をオーダーしてもらって、その穏やかな表情を毎日眺めていると、次第に本人の事を愛せるようになるというのは、今までの経験上、あり得るんです」
店長は少しばかり、営業的な笑みを浮かべる。
「そのお嬢さんの写真を添えて注文をくださると、見てるだけで気持ちの安らぐ人形を作って差し上げます。これは、お嬢さんへのプレゼントじゃなくて、あなたのための人形です。あなただけがそっと、愛でてあげてください。
きっと、高い買い物にはならないはずです」
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