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「はっはっはっは」
「っっっ?」
獣の息遣いが聞こえる。しかも疾走中の獣の息遣いだ。
草木を蹴って、軽快な音を立てて近づいてくる。
「嘘、でしょ」
さっきの犬が追いかけてきた?
それとももう一匹いた?
何はともあれ、追っ手がもうそこまで迫っている。
私は再び恐怖に追い立てられ、身体に鞭打って全速力で走った。
一度感じた痛みが再び脳内で再生されて感覚だけが身体中を這い回る。
もう二度と感じたくない痛みが、すぐそこまで迫っている。
早く、逃げなきゃ。
逃げなきゃ、
「きゃぁぁぁぁ!」
「がうっ!」
逃走虚しく再び背後から私は襲われた。
足を噛まれ、そのまま体勢を崩した私は何度か身体を地面に打ち付け、ゴロゴロと転がる。
その間も噛み付いたままの獣。
「ああっ、いだいいだいイダィィィィ! くそ、くそが! はなぜぇぇぇ!」
空いた足でまたその獣を蹴り倒すと「きゃおんっ」と弱々しい声を上げてそこら辺に転がる。
また体勢を立て直される前に逃げなきゃ。そう思って起き上がり、走った途端。
私はガクン、と体勢を崩した。
走ったすぐ先は下り坂になっていてそれに気づかず私は体勢を崩し、そのまま転げ落ちた。
勾配のある坂にゴロゴロと落ちて、途中何かにぶつかるんじゃないかと思って身体を強張らせた私だったけれど何のことはなく平坦な地面に着地するのだった。
仰向けに倒れると、もうすっかり日が暮れていた事に気づく。
薄紫の空が木々の隙間から覗けた。
土埃を纏い、全身は痛いところだらけ。
けど、とても開放的な気持ちになれた。
その理由は分からなかったけれど、身体は分かってたみたい。
クゥゥゥ~、とお腹が鳴る。
そうだ、私。
「何にもご飯食べてないんだ」
収容されてから初日の昼食以来、全く料理を口に付けていない。
水だけで何とか繋ぎ止めていた身体はそろそろ限界を迎えていた。
空っぽの身体にエネルギーを注がないと。
胡乱な視界で私は辺りを見渡した。
すると、目の前に見えた。
それはあろう事か、エリンギ。
木の幹にチョコンと生えたエリンギ。
何という因果。
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