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しばし準備運動の時間が与えられて私たちはストレッチなどで体を温めた。
見計らって監視員が声をかけ、グラウンドの周回を告げられる。
一周、二周とやっていくうちに女の子たちはヘロヘロ。男の子たちとグングン距離を離されていく。
「女だからって言い訳するな! しっかり走らんか!」
監視員の怒声が飛ぶ。
だが七周目で一人の女の子が脇腹を押さえて明らかなペースダウンを見せた。
「大丈夫?」
「う、うん」
私は彼女に歩み寄り、声をかける。
「おい、お前たち! 何歩いてるんだ! 早く走れ!」
と、私たちを見て間髪入れずに監視員が厳しい言葉を放つ。その言葉に一切の遠慮がない事に私は半ばイラついて声を上げて主張を口にする。
「彼女、脇腹を押さえてるんです! 少し休ませてあげてください!」
「何だと? お前ら、口答えするのか?」
「そんなんじゃありません」
私たちの方へ歩み寄ると監視員は警棒を抜き取って手のひらでポンポンと小さく叩いて威嚇する。
それでも私は、主張だけは曲げなかった。
「お願いですから、彼女だけでも休ませてあげて下さい。なんなら彼女の分まで私が走りますから」
「そんなっ、そこまでしなくてもっ」
「いいから」
申し訳なさそうにする彼女を制して私は監視員に物申す。無骨な表情が緩むことはなく、むしろ一層表情が険しくなって私は息を飲んだ。
「もういい。お前は早く走れ。そこのお前は別メニューに変更する。こい」
「えっ?」
言って、私だけ解放されて痛みを訴えた彼女は監視員に連れていかれた。
そのあと、彼女がどこに連れて行かれたのかは分からない。
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