好き嫌いはダメ

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§ 「逃走者だぁぁぁ! 捕まえろー!」  収容所全体に警告のサイレンがけたたましく鳴り、逃走者を追う複数の足音が重厚に響き渡る。  部屋の死角を突いて毎時間見回りにくる監視員をおびき出し、倒した後に鍵を奪って逃走した私は二つ目のロックを解除して外に出ていた。  脳内に地図を広げて迷わず疾駆する。 「この次を右に行けば柵がある」  それを越えれば山がその先にある。そこまで逃げ込めば大丈夫だ。  シミュレーションしながら成功のイメージを刷り込み、自分を鼓舞する。  ここまで来たらやるしかない。捕まったら何をされるか。  それに追っ手も全然来ない。案外ちょろいものね。まぁ。刑務所じゃないからそこまで警備が強化されているというわけじゃないのかもしれないけど。  と、一瞬余裕ぶる私だけれど遠くから聞こえるガゥガゥ! という声に背筋がぞくりとする。  次いで聞こえてくるタッタッタ、という軽快な足音、しかも速い。振り返るとシェパードがいた。  スラリとした足は物凄い脚力で私目掛けてやってくる。 「くそっ!」  私はまた一段ギアを上げて疾駆する。  曲がり角を折れて全速前進!  見えた!  柵がある、よじ登、れ。 「ぐあっぁぁ!」  柵に手を掛けた瞬間だった。  後ろから思い切り足を噛まれた。 「や、め、ろぉぉぉ!」  足をブンブン振り回して何とか犬を振り解こうとするが相当顎の力が強い。全然離れない。  牙が肉に食い込んで痛い跪きたい。  けどここで止まったら追っ手がくる。  私は心を鬼にしてもう片方のフリーの足で犬の顔面目掛けてキックを打ち込んだ。 「キャうっ!」  怯んだ隙に私は柵を登って距離を取る、が。 「ガゥガゥ!」  すぐに持ち直したシェパードは飛びついてまた私の足に噛みかかる。ブラン、と犬が足を噛んだまま宙ぶらりんになっていたので振りほどくとさっき程の手間はかからず簡単に落ちてくれた。
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