210人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「いやだ! いやだ! いやだーーーー!」
「七生、落ちつけ」
「いやだ! 触らないで! いやだ、本当はいや。抱かれるのはいや」
「わかったから。ほら、こうしているだけ」
身悶えるように暴れた七生の体は、加納の力に押さえ込まれて身じろぎも出来ない。だがそれは、無理やり押さえ込まれているのではなく、大きな真綿で包まれている柔らかさがあった。
抱かれているのだとわかった途端に体が硬直した。
体中の毛穴が嫌悪で詰まり、吐き出したくて吐き出せないどす黒い想いが胸の中で暴れまわる。父の声、言葉、体の重み、汗の感触、汚らわしい体液の臭い。
次々とフラッシュバックしては体を丸めて縮こまる。その体を加納が覆う。
これは誰。
行きずりの見知らぬ男。ついて来いといい、頭を撫でた。天使のように微笑んで、大丈夫だよと囁く男。
「ごめんなさい。ごめんなさい加納さん。親切にしてもらったのに」
「思い出させたのはおれだからね。悪かったよ、大人げなく君を探った」
「探った?」
「君が抱えている物はなんだろうとね、興味を持ったんだ。君の危うさは、おそらくこれからも君を危険にさせる。このまま手放してはおれも後味が悪い」
ふわっと抱きかかえられれば、逃げ出しようもなく縋りつくしかなく。
「とにかく寝よう。そこまでは君の仕事だ。いいね」
最初のコメントを投稿しよう!