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『お母さんっ!』
思わず母の顔を見る。
母は涙を流しながら私の顔を見て
ゆっくりと頷いた。
ハンバーグのフワフワ加減や
ハンバーグを切った時に出るキラキラした肉汁に
ふんわり甘くて酸味も効いたデミグラスソース。
どれをとっても、正しく父親のハンバーグそのものだった。
この人は、父からハンバーグの作り方を教えてもらっていたらしい。
そして、完璧に再現出来たら、父が持っていた店舗を譲ると約束していたようだ。
完璧に再現出来たのは、父が亡くなる1ヶ月前だったらしい。
「この味は、お前のものだ。だけど、一番最初の客は俺の家族にしてくれ」
それが、父とこのオーナーが最後に交わした言葉だった。
その1ヶ月後、父は還らぬ人となった。
この人は、父との最後の約束を守ってくれた。
また父のハンバーグが食べられる。
そして、今私はオーナーの妻として
このカフェで働いている。
父のハンバーグの味が
愛する旦那様に受け継がれた。
世界一のハンバーグは【父の味】から【旦那様の味】となった。
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