大好きな彼

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毛を逆立ててフーーーッと威嚇する猫のように、昴が俺を警戒して防御態勢になっている。 さすがにアノ話は、昴には刺激が強過ぎたようだ。 「わかったよ、昴。そんなこと絶対にしないから。だから、出ておいで」 なんて、そんなの嘘なんだけど。 「うそだ! そんなこと言っても、いつかはするつもりなんでしょ? 僕はいやだからね!」 まぁ、バレてるよね。 うーん、どうやって機嫌直してもらおうか。 あ、そうだ。 「そっか。じゃあ俺、帰るな」 猫っていうのは、あんまりしつこくすると逃げるから。 ここはあえて冷たくする作戦。 そうしたら案の定、昴は泣きそうな顔をして。 俺の方へと近づいて来た。 「か、帰っちゃうの? 急にどうして?」 俺はくるりと回れ右をした。 「怒っちゃったの? 僕がいやだって言ったから?」 昴の言葉に、にやけ顔が止まらないけど。 それでも身体は動かさずに、背中で冷たい態度をとって見せた。 すると昴は後ろから、俺にぎゅっとしがみついてきた。 「ごめんなさい。 違うんだ。 黒田君のことが嫌いだから、そう言ったんじゃなくて。 こ、怖くて……。 ただ、それだけなんだ。 だからお願い。怒らないで。 まだ帰らないで……」
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