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さんま☆ラプソディ
すっかり秋も深まり、窓から見えるイタヤカエデの立木はもうすっかり深い赤に染まっていた。空も抜けるように青く、そこを優雅に舞うアキアカネの色がまたよく映える。俺は秋爛漫と形容すべき空気の中一人誰もいない空き教室で、読書の秋らしく文庫本を開いていた。
しかし、端書きすら読み終わらない間に突如俺の読書の秋は終わりを告げた。引き戸がけたたましい音をたてて開けられ、冷たい外気と共に一人の女子生徒が入ってきたからだ。セミロングの黒髪に、秋らしくモミジを象った髪留めをつけ、勝気そうな瞳を輝かせて俺の方に歩み寄る。
「また一人で漫画なんて読んでるの?全く、友達いないの?」
「いや、どうみても小説じゃないっすか。いきなり入ってくるなりうるさいっすよ、目黒部長」
目黒秋希(めぐろあき)。それがこの文学部部長である。俺、橋本日(はしもとあきら)はその文学部のしがない一員である訳なのだが、この目黒部長は部外者も知るほどの変わり者で、俺はいつも振り回される側なのだ。
「まあいいや。そんなことより橋本、まずまずの紅葉ですっかり秋模様だね」
「まあそうっすね。読書の秋っす」
「いやいや、食欲の秋でしょ。まず松茸ご飯とサンマは欠かせないよね」
うへへ、と笑いながら微笑む目黒部長に俺は嘆息する。
「それでも文学部の部長っすかアンタは。今の所それらしい活動全くしてないじゃないっすか。そんなだから部員も幽霊が続々と…」
「まあまあ落ち着いて橋本。言うほどそこまで活動に支障は」
「それじゃあこの空席率はどう証明するんすか」
俺は独自につけていた出席簿を指でトントンとつくと、目黒部長はうろたえる。確かにその欄には、俺と先輩以外の名前には一週間以上空欄が続いている。
「…ま、待って。君と同じクラスの前田はどうしたの」
「『そんな部室にいられるか!俺は帰らせてもらうぜ!』って死亡フラグ立てて帰りましたよ」
「ま、マジかー…。全く、なってないなぁ」
「なってないのは先輩の方っす!何の活動もしないから関心が薄れてこんなんなってるんすよ!」
机の天板を叩いた俺を見て肩を竦める目黒先輩。これで少しは反省してくれるといいのだが。
「そこまでマジに怒らなくてもいいじゃん…。マジテンション下がるわー」
「アンタって人はーっ!」
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