第51夜 ー穴蔵ー

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 どれだけ時間が経っただろう? それ程経っていない気もするが、実はもの凄く経過してしまったかも知れない。  ようやく立ち上がった神藤だったが、頭の中の整理は全く出来ていなかった。  それでも重い腰を上げたのには、一夜一殺のルールがある為。ストックがあると言っても減らさずにいきたかったし、何よりここにいては、無防備ないいカモになるからだった。  とは言っても、何処に向かえばいいか分からない。  それならもういっそのことカモになり切って、おびき寄せようかと考えた時、微かに何かが聞こえてきた。  ――コツン。コツン。  それは硬い物を踏み鳴らした音。直感的にコンクリートの上を歩いた時に鳴るものだと分かり、慌てて周囲に目を配った。  誰かがやって来るとしたら階段しかない。だがそれにしては、思っている音と違う。  聞こえてくる音は篭ったような感じがした。響いていると言った方が正しいのか、それはまるでトンネルの中みたいな――。  そう思ったところで、神藤はハッとなる。  まさかに驚きながらもそれしか考えられず、とにかくこのままでは正面から出会ってしまう為、ひとまず隠れることにした。  ベンチから離れ、階段に走る。階段の所の壁を利用して身を隠し、背中を着けたままそっと顔だけを覗かせた。  高いヒールの音は徐々に近付いてくる。線路の方を釘付けに見ている神藤の心臓は、どくどくと高鳴っていた。  やがて声は出さず、口だけでやっぱり……と呟く。  予想通り、音は伸びる線路の向こう側から鳴っていた。そして線路を歩いてやって来たのは、背が高く細い女性だった。
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