1954人が本棚に入れています
本棚に追加
チャクラムと呼ばれる投擲武器のひとつ。刃の付いたドーナツ状の輪っかを投げて攻撃する。別名円月輪とも呼ばれ、投擲武器では珍しい "斬る" ことを目的とされている。
実際に存在する武器らしいが、漫画やファンタジーの中でも余り見掛けることはないかも知れない。
そんなマイナー武器のことを神藤は知っていた。
知っていたことと、攻撃されるまでの余裕があったので、向かってきた輪を躱すことが出来た。
輪は繋がっている糸によって、ブーメランのように女性の手元に戻っていく。
ファンタジーでは手元に戻ることが当たり前になっているが、本来戻ることはないらしい。まぁよく考えれば例え戻ってきたとしても、鋭利な刃を掴み取ることは難しいだろう。
しかし女性は、わざわざ糸で返ってくるようにしてある。
それを可能にしているのは、グローブがただの革製ではなく、防刃手袋だったからだ。
戻ってきた輪を掴んだ女性は、ちっと舌打ちを吐き出したような表情をする。すぐに次を投げようとしたが、驚きに目を見開いた。
躱した後に、神藤は走り出していた。輪が糸で繋がっていると分かっていた以上、次の攻撃までにインターバルが発生する――。
その隙を狙って奇襲を仕掛けた。
思惑通り輪が手元に戻った頃には、攻撃間合いまで詰め寄れることが出来た。
――もらった。
思わずにやりと笑い、大きく剣を振りかぶった。
首元から胸に走る一太刀をイメージする。
だが今度、神藤が目を見開くこととなった。
「ギィン!」
ホームに響く金属音。握る輪で一振りを受け止めた女性。そのまま曲線を利用してうまく去なすと、ガラ空きとなった神藤の脇腹に蹴りを入れた。
「ぐっ……!」
防御は間に合わず、もろにくらう。女性の割には強い蹴りに、顔を顰めながらよろめいた。
変わった武器からマイ武器であることは明白。さすがレベル50まで到達しただけあって、戦い慣れている。
――あぁ、面倒だな。
愚痴を心の中で呟き、顔を正面に戻せば、飛ばされた輪がもう目の前に迫っていた。
「なっ!?」
反射的に躱すが、頬を斬られる。このままでは状況が不利だと考えた神藤は、一旦体勢を整える為、この場を離れることにした。
勢いよく回転する輪が女性に戻っていく。その隙に背後の階段を駆け上がった。
最初のコメントを投稿しよう!