第51夜 ー穴蔵ー

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「待てっ!」  逃げ出した神藤を慌てて追い掛け、女性が輪を投げる。しかし1段飛ばしで駆け上がって行く男と距離が空いてしまい、届くことはなかった。  糸の限界で虚しく空振りして、輪が戻ってくる。それを掴み取り、同じく階段を駆け上った。  一方、一足早く長い通路に出た神藤。すぐの⑤番ホームで迎え討とうと考えたが、背後に迫り来る気配に、もう少し離れた方がいいと判断する。  通路で追い掛けられるのは危険だが、自分の体勢を整えるのを第一優先とし、③番ホームに下りることにした。  後ろを振り返ることなく走る。どのくらい離れているのか分からないが、距離を縮められていないことを願う。  右に角を曲がった瞬間、すぐ近くでガンと何かが当たった音がした。同時にちっと声も聞こえ、女性の投げた輪が惜しくも壁に当たったのだと分かった。  危なかった――。  やはり直線通路で投擲武器に背を向けるのは危険だ。  ほっと内心で安堵し、見えた③番ホームの階段を下りる。  線路内に降り立つと、退避スペースに身を隠した。  女性からすれば、角を曲がって神藤の姿がなくなったことから、③番ホームに向かったと推測出来るだろう。  そうして追って来てもらうことが前提。そして捜し回している内に、攻撃のタイミングを計る考えだった。  間もなくして階段を下りてくる音がする。バタバタと乗降通路を走り、しばらくして足音が止んだ。  ホーム上で身を隠す場所は限られる。  ベンチの下か、線路の退避スペース。  あるいは線路を走って逃げる、かの方法しかなく、神藤の姿が見えないことに、女性は気が逸ったような様子を見せた。  頭上から聞こえる足音が遠ざかっていく。神藤はちらりと体を出し、女性が行き止まりの方に向かっていくのを確認した。  そっと乗降通路に上がり、背後からの奇襲を仕掛ける。またリュックの熊が動き出すのは間違いないだろうと、一発もらう覚悟で近付いた。
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